「飛行機でひとっ飛びもいいけれど、せっかくならもっと特別な移動がしてみたい」
「移動そのものも旅の思い出にしたい」
そんな気持ちを抱えたあなたにぴったりなのが、シチリアからローマへ向かう夜行寝台列車「インターシティ・ノッテ」です。
このルートでは列車ごとフェリーで海を渡るという、日本ではすでに体験できなくなった珍しい仕組みが今も残っています。鉄道ファンでなくてもワクワクするような、特別で記憶に残る移動体験です。
本記事では、インターシティ・ノッテの予約方法や注意点とあわせてリアルな乗車記をご紹介します。

「移動も旅の一部」と考える旅好きのあなたに、心からおすすめしたい特別な列車旅の全貌をお届け!
この記事を読み終える頃には、あなたの旅のプランに「夜行寝台列車」という選択肢が加わっているはずです。
この旅が含まれるイタリア旅行の全体プランはこちらで紹介しています!ぜひこちらもご覧ください。


シチリアからローマへ!夜行寝台列車「インターシティ・ノッテ」とは?


インターシティ・ノッテ(InterCity Notte)はイタリア国鉄Trenitaliaが運行する夜行列車で、ローマやミラノから南イタリア各地へ向かう長距離ルートを中心に運行されています。
なかでも今回ご紹介するのは、シチリア島とローマを結ぶ特別なルートです。この路線の最大の魅力は、列車がそのままフェリーに乗り込みメッシーナ海峡を渡るという珍しい仕組み(通称:渡り鳥ライン)にあります。


メッシーナ海峡の幅は、最も狭い部分でわずか約3.2kmほどしかありません。しかし橋がかかっていないため、列車はフェリーに積み込まれて約20〜30分かけて海を横断します。


フェリーの甲板には線路が敷かれ、陸上のレールとつながれて列車がそのまま船内へ。車両がゆっくりと乗り込んでいく光景は、鉄道ファンでなくても思わず見入ってしまうはずです。


ちなみに、2024年2月に発表された設計案によると、2030年代後半にはメッシーナ海峡大橋が完成予定だとか。
それに伴いこのフェリー輸送も廃止される可能性があるため、この貴重な体験ができるのは今のうちかもしれません。
シチリア〜ローマの列車旅で注意したいこと7選【食事・設備・安全】


夜行列車は魅力的な反面、利用にあたって気をつけたいポイントもいくつかあります。実際に乗ってみてわかった「気をつけたいポイント」を7つにまとめました。
- 食事は持ち込みがおすすめ!
- 清潔感や設備には期待しない
- 寝台車にシャワーなし!最低限の洗面のみ
- トイレはタイミングを見極めて
- 鍵のかかり方に注意!セキュリティ対策も大切
- Wi-Fiなし&電源が不安定なことも
- 必要なものはあらかじめ分けて持ち込んで
それでは、ひとつずつ詳しく説明していきます。
食事は持ち込みがおすすめ!
インターシティ・ノッテには食堂車がないため、食事はあらかじめ購入して持ち込むのが良いでしょう。フェリー移動中の売店も営業していなかったため、当てにはできません。
ちなみに、タオルミーナ周辺にはスーパーが見当たらず、軽食を手に入れるのにも一苦労しました。



私たちはカフェで見つけたアランチーノ(ライスコロッケ)を購入して持ち込みました。


ネットでの事前注文も可能なようですが、仕組みが分かりづらく今回は利用しませんでした。


なお、水のボトルが1本支給されますがそれだけでは足りないと感じる場合は、飲み物も余裕をもって準備しておきましょう。
清潔感や設備には期待しない
海外の列車全般に言えることですが、日本のように清潔で完璧な設備環境は期待できません。とくに潔癖気味の方にはやや厳しい環境です。
清掃はされていると思うのですが、ベッドの端に埃がたまっていたり部屋の隅にゴミが残っていたりと、全体的に少し埃っぽい印象を受けました。



また、車内のライトがつかなかったり設備が一部壊れていたりするのも海外あるあるです。
完璧を求めすぎず多少の不具合は旅のスパイスだと受け入れるくらいの気持ちでいると、ストレスも軽減されます。
衛生面が気になる方は、マスクやウェットティッシュの持参がおすすめです。
寝台車にシャワーなし!最低限の洗面のみ
インターシティ・ノッテにはシャワー付きのコンパートメントがある路線もあるようですが、今回乗車した列車には設定がありませんでした。
私たちが利用した個室には、小さなシンクがひとつあるだけ。水の衛生面も不安だったので、歯みがきにはペットボトルの水を使用しました。
顔を洗ったり手を洗ったりする程度なら問題ない印象です。


仮にシャワー付きのコンパートメントだったとしても、ちゃんとお湯が出るかは正直わかりません……。そのあたりも海外列車では運次第です。



とはいえ、一晩だけの移動です。ボディシートや体拭きタオルを用意しておけば、特に困ることはないでしょう。
なお、個室ではない場合はトイレ近くにある共用の洗面スペースを利用する形になります。
トイレはタイミングを見極めて
トイレは必ずしも清潔とは言えず、使うタイミングには注意が必要です。
トイレットペーパーが濡れていたり床に汚れが残っていたりすることもあり、衛生面はあまり期待できません。潔癖気味の方は、ウェットティッシュの持参がおすすめです。
さらに驚くことに、トイレはおそらく“垂れ流し方式”と思われます。


もし垂れ流し方式なら、停車中は使用できない仕組みになっている可能性があります。(列車によって異なるかもしれません)



ちなみに、フェリー内のトイレもあまり清潔とはいえませんでした。
列車に限らず、海外旅行ではトイレの衛生レベルにギャップを感じる場面も多々あります。「ペーパーがあるだけラッキー、便座があれば拍手」これはもはや海外トイレあるあるです。
きれいなトイレに慣れている私たちにとって、海外のトイレ事情はいつまでも慣れない永遠の課題かもしれません。
鍵のかかり方に注意!
室内には内鍵しかなく、施錠は内側からのみ。外から鍵をかけることはできません。
トイレなどで短時間席を離れる程度であれば問題ありませんが、フェリー甲板に出るなど部屋を完全に空ける際は、貴重品の管理に注意が必要です。
実際、フェリー甲板に上がった際には列車のドアが開けっぱなしになっており、極端に言えば他の個室にも入れてしまう状態でした。


限られた空間内なのでスーツケースごと盗まれることは考えにくいものの、心配な方はスーツケースを座席やベッドに固定できるワイヤーロックを持参すると安心です。



ちなみに私たちはワイヤーロックを持っていなかったため、少し不安を感じたのも事実です。
充電器などの小物類はスーツケースに入れてロックするなど、最低限の対策はしました。
Wi-Fiなし&電源が不安定なことも
列車にはWi-Fiはなく、オンライン環境は期待できません。座席にはコンセントがありますが走行中でないと使えず、充電環境は不安定です。
そのためモバイルバッテリーは必携。必ず事前にフル充電しておきましょう。
なお、5Gなどのモバイル通信はエリアによっては利用可能でした。



車内で読書や音楽、動画などを楽しみたい方は、必要なコンテンツをあらかじめダウンロードしておくのが安心です。
なお、海外旅行時の通信手段については別記事で詳しくご紹介しています。旅のスタイルに合わせた通信手段を選びたい方は、ぜひ参考にしてみてください。


必要なものはあらかじめ分けて持ち込んで
コンパートメント内は非常にコンパクトなつくりで、大きなスーツケースを頻繁に開け閉めするのは現実的ではありません。ベッド脇や足元のスペースにも限りがあります。
私たちが使っているH73×W50×D25cm(68L)のスーツケースは、ベッドサイドでフルオープンできませんでした。
ちなみに、今回の旅行で使用したスーツケースはこちらです。




そのため、機内持ち込み用のようなサブバッグに、必要なものだけを分けておくのがおすすめです。以下のようなものを取り出しやすい場所にまとめておくと快適に過ごせます。
- モバイルバッテリー・充電ケーブル
- 飲み物・軽食
- ウェットティッシュ・ポケットティッシュ
- アイマスク・耳栓・マスク
- 身だしなみ用品
- 読書用の本やタブレット端末
- 着替え
限られた空間だからこそ、事前の荷物整理が快適な旅につながります。
【乗車記】シチリアからローマへ!夜行列車のリアル体験レビュー


注意点をお伝えしたところで、いよいよ私たちのリアルな乗車体験をお届けします。少しの不便さなんて吹き飛んでしまうほどの、感動的な時間の始まりです!
- 映画の舞台にもなった「タオルミーナ=ジャルディーニ駅」から旅は始まる
- 1等寝台個室はこんな感じ!
- メッシーナ海峡を列車ごとフェリーで渡る特別な体験
- トラブル発生!なぜか90分の謎の遅延
- 本格エスプレッソ付きの朝食で迎えるローマ到着前の朝
映画の舞台にもなった「タオルミーナ=ジャルディーニ駅」から旅は始まる
旅の出発地は、名作映画『グラン・ブルー』や『ゴッドファーザー』にも登場した「タオルミーナ=ジャルディーニ駅(Taormina-Giardini)」。タオルミーナの町のふもと、海沿いにある美しい駅舎です。


この駅が開業したのは1860年代ですが、現在の駅舎は1920年代に建て替えられたものです。当時この地にあった貴族の邸宅を国が買い取り、その建物をもとに駅舎として再設計されました。



特筆すべきはその内装の美しさです!
パレルモ出身の芸術家サルヴァトーレ・グレゴリエッティ(Salvatore Gregorietti)によって手がけられた駅構内には、色彩豊かなフレスコ画や繊細なレリーフ装飾などが施されています。


とくにロビーの高い天井に描かれた幾何学模様のフレスコ画は圧巻です。使われていない昔の窓口や木製のベンチなどもそのまま残されていて、どこか時が止まったようなノスタルジックな空間に包まれます。


列車を待ちながら、ぜひ天井や壁にも目を向けてみてください。
ちなみにこの日私たちが乗る予定だった電車は、当初1番ホームと表示されていたにもかかわらず発車直前に2番ホームに変更されました。


アナウンスなどはなく電光掲示板の表示が突然切り替わるため、油断は禁物。こまめに掲示板をチェックしておくことを強くおすすめします。
1等寝台個室はこんな感じ!


今回利用したのは、1等寝台の個室タイプ。ベッドや設備の仕様、実際の使い勝手などを写真付きで詳しくご紹介します。
初めての利用でもイメージが湧きやすいよう、ポイントごとに分けてまとめました。
ベッド構成とコンパートメントの広さ
この寝台個室は最大3人まで利用可能で、壁沿いに3段ベッドが設置されています。


私たちは2人での利用だったため一番上のベッドは収納されたままでしたが、3人で利用する場合は注意。2段目のスペースはかなり狭く、腰を上げるのも難しいほどです。


コンパートメントの広さは寝るだけの最低限スペース。ベッドの横には立てるけど、腕は横に伸ばせない。よって、スーツケースを開ける余裕はほとんどありません。
寝具とリネン・アメニティ類
シーツ・ブランケット・枕はあらかじめセッティングされており、タオル類が袋に入った状態で用意されていました。リネン類は汚れや匂いが気になることもなく、清潔感がありました。


ブランケットは薄めなので、寒がりな方は靴下や羽織り物の持参がおすすめです。
アメニティ類は、アイマスク・歯ブラシ・石鹸・おしぼりが小さな箱にまとめて用意されています。さらにペットボトルの水(500ml)も一人1本セットされていました。


パジャマやスリッパの用意はないため、快適に過ごしたい方は持参しておくと安心です。
ベッドサイドの設備
各ベッドサイドには読書灯とコンセントプラグ、お部屋の電気スイッチが設置されています。


乗務員と連絡が取れるらしきボタンも付いていました。うっかり押してしまいましたが、特に反応はなく……故障していたのかもしれません。


スマホの充電も可能ですが、電車が動いていないと通電しない仕様のようでした。またコンセントがやや外れやすく、安定感に欠けます。
メッシーナ海峡を列車ごとフェリーで渡る特別な体験
いよいよこのルートのメインイベント、シチリア島とイタリア本土を隔てるメッシーナ海峡を乗っている車両ごと船で渡ります。


フェリーへの積み込みは数両ずつ行われ、自分の車両が停車すると乗り降りが自由になります。



放送などの案内は一切なかったので、他の車両の積み込み中に降りていいのか不安でした。
恐る恐る降りてみると係のお兄さんが「最寄りの階段はBだよ!(戻ってくる時の目印)」と親切に教えてくれました。


日本だったら「危ないから」と降車を制限されそうな場面も、ここでは特にとがめられることもなくのんびりムード。列車のすぐそばを歩くことができて写真撮り放題なのは、電車好きにとって嬉しいところです!


フェリーの内部はかなり広く座席もたくさんありましたが、乗客はまばら。売店も閉まっていて静かでした。


甲板に出れば、自分たちの列車がそのまま乗っている様子を外から眺めることもできます。


実際にフェリーが動いている時間は20〜30分程度と短めですが、列車の積み込み・切り離し・再連結にはかなり時間がかかり、トータルで1時間以上必要でした。


かなり非効率ですがそのゆるさも含めて非日常感がなんだか楽しくて、特別感をたっぷり味わえました。
トラブル発生!なぜか90分の謎の遅延
「あと1時間くらいで着くはずだよね」と思って何気なくGoogle Mapを開いてみたら、思いがけずまだ目的地からかなり遠くてびっくり。
「これ、本当にあと1時間で着ける?」と不安になり、列車情報のサイトをチェックしたところ、実は遅延していることが判明しました。





車内アナウンスもなく遅延の理由もわからないまま、結局90分ほど到着が遅れることに。
でも今回は早朝到着予定だったので、「むしろもう少しゆっくりできてラッキー!」と前向きに受け止められました。


海外の列車全般に言えることですが、時刻表通りに進まないのはよくあること。
日本のように時間通りに動くとは限らないので、到着後の予定は少し余裕を持って組んでおくのが安心です。
本格エスプレッソ付きの朝食で迎えるローマ到着前の朝
ローマ到着の約1時間前、乗務員さんがトレーに載せた朝食を順番に各部屋へ配ってまわります。
中身は、袋入りのクロワッサン・甘いスナック・フルーツジュースというシンプルな内容。しかし、ひときわ目を引いたのが、添えられたエスプレッソでした。



驚くほど本格的で、香りや味わいはインスタントとはまるで違いました。


車両の端にある車掌室のようなスペースには本格的なエスプレッソマシンが置かれていて、どうやら1杯ずつ丁寧に淹れているようでした。


そこにこだわる?と思わずツッコミたくなるほどの熱量。でも、そんなところにイタリアらしさを感じました。
シチリア〜ローマの列車を予約する方法


海外での鉄道移動には、不安がつきものです。とくに夜行列車は本数が限られているため、事前に日本で予約を済ませておくと安心。
知らない土地で切符の買い方がわからないと戸惑うこともありますが、出発前にしっかり準備しておけば、現地での移動もスムーズに進みます。
それではひとつずつ説明していきます。
イタリア国鉄の公式サイト「Trenitalia」から予約する方法
チケットはイタリア国鉄の公式サイト(Trenitalia)から予約できます。





ただし、日本語表示がなく駅名なども英語で入力する必要があるため、慣れていない方にはややハードルが高いかもしれません。
英語の操作にストレスを感じない方や現地の鉄道システムに慣れている方なら、こちらでも問題なく予約できるでしょう。
「Omio」アプリから予約する方法【ステップごとに画像で解説】
公式ページは日本語表示がなく操作もややわかりづらかったため、私は「Omio(オミオ)」というアプリを利用しました。
Omioは日本語対応でチケットレス管理もできるため、海外での移動にはとても心強いサービスです。予約までのステップをわかりやすく解説します。
まずは、スマートフォンに「Omio」アプリをインストールしましょう。


アプリを開くと、「どこへいく?」という検索画面が表示されます。
ここで、「出発地」「目的地」「日程」「人数」を入力します。


地名はカタカナ入力にも対応しているので、現地の正式な綴りがわからなくても大丈夫。「ローマ」や「パレルモ」といった日本語表記でも検索できるのは、はじめて使う人にも嬉しいポイントです。
今回は夜行列車に乗るため、出発時間が夕方〜夜になるように調整します。
検索結果の中から「Inter City Notte」を選択しましょう。


次に、座席のクラスを選択します。夜行列車にはいくつかの等級があり、快適さやプライバシーの度合いによって料金も異なります。
今回私が利用したのは「Deluxe」という個室タイプでしたが、他にも最大4人で相部屋になる「Cuccetta Comfort」というクラスもあります。


わかりやすく表でまとめました。
クラス | omio表示 | 特徴 | 快適性 |
Deluxe | 一等 | 洗面台・鏡・電源完備1~3人で利用可能な個室 | ★★★★☆(プライバシーあり) |
Cuccetta Comfort | 寝台 – 混合 | 最大4人の簡易寝台同性の相部屋が基本 | ★★★☆☆(寝台だが相部屋) |


女性の一人旅であれば、迷わずDeluxeのシングルユースを選ぶのがおすすめ。
逆に、他の人とのちょっとした交流を楽しみたい人やできるだけ予算を抑えたい人は「Cuccetta Comfort」でもいいかもしれません。
名前やメールアドレスなどの基本情報を入力します。


会員登録をしなくても購入できますが、登録しておくと履歴管理がしやすく便利です。
各種クレジットカードだけでなく、Apple payやPayPalでも決済できます。


購入後、チケットはメールでも送られてきますが、アプリ内にも自動で保存されます。


乗車時には予約画面を提示するだけ!印刷は不要です。



予約後にチケットを確認したところ、座席番号が「31」と「41」になっていたため、「これって同じ部屋にならないのでは…?」と少し不安になりました。
しかし、当日ホームで乗り込む際にチケットを確認してくれた乗務員が、部屋割りを調整してくれていました。どうやら、最終的な配置は当日決まる仕組みのようです。
おかげで、私たちは同じ個室に無事案内されました。
寝台列車に乗れば、シチリア〜ローマの旅は忘れられないものになる!


寝台列車「Intercity Notte」に乗ればただの移動時間が、旅のハイライトに変わります。
列車ごとフェリーで海を渡る体験や夜の静寂と揺れに包まれて過ごす時間、そして朝のエスプレッソの香り。どれもシチリア〜ローマ間を走るこの路線ならではです。
もちろん、夜行列車には多少の不便やハプニングもつきもの。しかし、それも含めて「旅してる!」という実感が得られるのが、このルートの醍醐味です。
移動時間までも旅の思い出にできるのが、寝台列車の魅力。シチリアからローマへ向かうなら、ぜひ寝台列車での移動を組み込んでみてください。
きっと、忘れられない旅になるはずです。